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2009/09/19 (Sat) かばん2008年6月号 5/5

【はじめに】
独断に基づいて選んだ、好きな歌を批評します。
原則、冊子の状態に従います。
そののちに退会した会員の方の作品も、(当時の)会員作品として扱います。
改名された方も当時の名前で掲載させていただきます。
誤字脱字があった場合は、コメントでご一報くださると非常に助かります。
敬称は省略させていただきます。

20.
――海ですよ。バスが停まってうたた寝のあいだ隣にいた人 いない
                   佐藤弓生 「こよなく美しい島」より
ダッシュの記号が時間の経過・ドラマを感じさせて、歌の雰囲気をうまく作っている。
でも、「海ですよ」っていうのは誰の声なんだろう。
景色からなのだろうか。よくよく考えたら不思議である。
そして「隣にいた人」の不在もこの歌の肝であると思う。
決してホラーではないが「うたた寝」というおぼろげな中で、何かが不在になることはちいさな不安定さを感じさせる。


22.
分別のない写真家が持ち込んだ青に戸惑う僕の果樹園
              関川洋平 「グッドボーイ」より
「青」は空なのだろうか。
いずれにせよ「青」と「果樹園」の色彩の鮮やかさが眩しい。
またその鮮やかな状況をもたらした人物を「分別のない写真家」と評しているのも面白い。
ショートフィルムのような、色彩の美しい物語的な雰囲気を感じる。


23.
人に告ぐべきにあらねど茜雲うちの嫁だけジブリが嫌い
   市川周 「濡れている星 ―ヘリウムの章―」より
「ジブリが嫌い」が言い得て妙である。
確かに、嫁がジブリを嫌いだということは人にいちいち告げたりしない。
ここでほかの言葉だとゆらいでしまうだろう。
嫌いな人の少なそうな(逆にいえば嫌いな人のキャラ立ちがはっきりしそうな)、「ジブリ」を選ぶところに作者のセンスを感じる。


24.
石油王まちがい電話で目をさます 雪 東京につもらない 雪
      市川周 「濡れている星 ―ヘリウムの章―」より
パニックに包まれたような印象を受ける歌。
「石油王」という浮世離れした響き、雪のリフレイン、1字空けの多用がバランスをうまく崩している。
また「まちがい電話」のあてのなさ、つもらない雪の存在も、頼りなさを感じさせる。


25.
ゆれるのは水兵リーベ僕の舟 春から逃げてどこまでも 北
     市川周 「濡れている星 ―ヘリウムの章―」より
「北」から効果を完全に推量することはかなわなかったが、どこか暗示的な印象を受ける。
「春から逃げて」ということは雪や冬なのだろうか?
また、前半の慣用的な表現が流れるように読めるので、呪文のような印象を受ける。
体言止めで「北」の飛び出す終わり方も、ここでは呪文独特のシュールさを感じさせる。


26.
地面からはがされていく鉱石を積み上げた分さびしい塔
               蓋炉郁 「ゆらぐ夜道で」より
壮大なスケールの一首。
「地面」「鉱石」「塔」という大きな世界をうまくまとめている。
「地面からはがされていく鉱石」という表現も、大きなものが動かされる印象を受ける。
ただ、鉱石のはがされた地面を考えるとそれは決してポジティヴではない。
そのことは「さびしい塔」からも、想像することができる。
ダイナミックな動きの中に、おおきな空虚さも潜んでいる歌である。

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2009/08/09 (Sun) かばん2008年6月号 4/5

【はじめに】
独断に基づいて選んだ、好きな歌を批評します。
原則、冊子の状態に従います。
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16.
寺町のお花やさんのお二階の碁盤の目という名の美容院
                      (碁盤の目:カドリエ)
                    イソカツミ 「quadrille」より
リズムのテンポが美しい歌であると思う。「お」の繰り返しがすごく滑らかだ。
視点の流れも、広い所(寺町)からフォーカス(お花やさん)して上(お二階)にのぼっていくというもので、非常にリズムに似つかわしくて躍動感があるように感じる。
また、「お」の繰り返し、「寺町」や「碁盤の目」という言葉から自然と京都を連想させているように感じる。
とくに「お」を連ねる技巧は非常に自然であり、あざとさを感じさせない。


17.
舌を噛む素振りを見せて世界には天使が入り込みすぎている
                  本多忠義 「耐えうる両手」より
「世界には天使が入り込みすぎている」という言葉が、印象に残る。
平和の中にある毒であったり、非現実な言い切りがドラマティックである。


18.
犬は鎖につなぐべからず きょうの日も芝居の雪が紙だった日も
                     杉山モナミ 「芝居の雪」より
正直誰も前半・後半のつながりなんて分からないのではないのだろうか。少なくとも私は全く分からない。
けれど、その分からなさが鼻につかない歌である。「芝居の雪が紙」という偽物の存在が、全体の不安定さを良い意味で強めている気がする。
また、後半で提示されている時制はすべて過去なのも面白い。
作中主体の公開を含むつぶやきのようにも、どことなく思えてくる歌である。


19.
牛乳に透けるどん底やわらかくわたし、わたしの横顔をのむ
                  杉山モナミ 「芝居の雪」より
歌でも「やわらかく」と言われているけれど、「どん底」が非常にやわらかくて淀んでいる。牛乳の色合いの効果、ほとんど底が見えない状態を想起させる効果だからだろうか。
全体的に、牛乳の色の膜がかかった印象を受ける。そのせいか「横顔をのむ」行為が、じわじわと不気味さを与えてくる。断定の表現なので、ゆるぎなさも感じられてどことなく怖い。

20.
筆立てにつまだちながらかたむいているからかつて鋏は少女
                佐藤弓生 「こよなく美しい島」より
体言止めの鋭さと「鋏」がうまく相乗している。
一見、鋏=少年でもかまわなかったのではないかと思えなくもないが、「つまだちながらかたむいている」様は思春期の少女に似つかわしい仕草である。
観察眼の鋭さをうかがわせる歌であるように感じる。

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2009/08/08 (Sat) かばん2008年6月号 3/5

【はじめに】
独断に基づいて選んだ、好きな歌を批評します。
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11.
ちぎるなと書かれレモングラスの葉ちぎりてみればレモンの匂いす
                         杉崎恒夫 「指定席」より
<禁忌が示されていて、それを作中主体が破った、その結果何かが起きた>というシンプルな構図が活かされた歌であると感じる。
レモングラスの葉をちぎってはいけないといったタブーの結果が、「レモンの匂い」が漂うというものであった。
もちろん「レモンの匂い」に罪を重ねて読むのも妥当な解釈なのである。
しかし、私はレモンの匂いを考えるとどうしても爽やかさや軽さ、そこからあっけなさを想像してしまう。タブーの結果は、実にあっけないものであったのではないのだろうか。前述の構図からもそれが想起できるのではないのだろうか。


12.
等式の疲れをながむ左辺よりくずれてゆけば吐く否定律
                   石井浩 「はかなし」より
イメージがなめらかにまとまっている印象を受ける。「否定律」という単語は扱いによっては奇抜な印象を与えるのであるが、この歌では非常に重厚に全体を抑えているように感じる。
「疲れ」「くずれて」から、耐えられなくなって行くものの存在を、後半のひらがなの連続によってぼろぼろと壊れていく物の存在を感じさせる。
そして、結句がピアノの低音のキーのように歌全体に響いているのである。


13.
はじめての性交ののちの静けさに刻みそめたる夕浪涼し
 下坂武人 「今日も独りで―或いは菱川先生からの宿題」より
「はじめての性交」以前の期待と、「のち」の様子との対比が「静けさ」に収斂されている印象を受ける。
また、「静けさ」「夕浪」「涼し」という言葉から、音・時間帯・温度の全体から終わってしまったことへのあっけなさを感じずにいられない。
短歌で季語読みはしてよいのか悪いのかわからないが、「涼し」から全体的に夏の印象を受ける。


14.
浴槽に両脇の鰓とづるごとちぢまってしまふ老人たちは
        山下一路 「徘徊する老人たちの惑星」より
「鰓」は<えら>と読むことを初めて知った。知ってますます面白い歌だと感じた。
とにかくいい意味で不気味でシュールな歌である。前半の光景は迫力すら感じる。そこに「老人」を持ち込み動作を重ねることで、「老人」が人間以外の化けものめいた存在に思えてくる。
また、「ちぢまってしまふ」という言葉から、「老人」が小さい存在・卑屈な存在に思えてくる。


15.
焼け跡にとぢこめられしドアノブを鼈甲飴ですかし見てゐる
         山下一路 「徘徊する老人たちの惑星」より
「焼け跡」と「鼈甲飴」の色彩の重なりが美しく、ノスタルジックである。
「とぢこめられし」や「ドアノブ」も、どこか閉鎖的で懐古的な印象を受ける。
歌に直接触れられていない物語を想像させる歌であるように感じる。

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2009/08/08 (Sat) かばん2008年6月号 2/5

【はじめに】
独断に基づいて選んだ、好きな歌を批評します。
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6.
半分が優しさでできているひと代表ウエンツ瑛士を射殺
             白辺いづみ 「追いつきたい」より
はっきり言って現実でやってしまったなら大ごとになる歌である。
だけれど、フィクションという前提を感じさせるから不気味なイメージがない。むしろある種の爽快さすら感じさせる。言葉に曖昧さがないことと、人物に対する恨みを感じさせないこと、体言止めの強さが出ているからだろう。
またウエンツ瑛士という人物の選択も見事であると思う。彼の、どことなく非現実なキャラクターが歌をうまく盛り上げている気がする。


7.
フロイトとユングの違い説く友の首から生える一本のヒゲ
 天昵聰 「鉄塔の下、太陽の東(きりはりへりをり31.06Ver.)」より
漠然とした、リアルでない世界から現実へのフォーカスが生々しく、美しい。
一本のヒゲという二次性徴を想起させるモチーフも見事である。
「友」が完全な大人になりきれていないのに、大人の世界を知っているかのような口ぶりで哲学者たちを説く、未熟なもののもつ生意気さや気丈さをどこかに負わす光景である。
また、説くという動作から喉元(おそらく、あごと首の間のヒゲでないかと私は推測している)への視点の動きにも無理のない歌である。


8.
この世にはケーキもアイスもチョコもあるあなたがいなくたっておいしい
            有田里絵 「モルディブのビーズが出てきた」より
言いきりの歌なのに、「おいしい」のあとに「から」や「けど」を想像してしまうのは私だけだろうか。
どことなく作中主体の開き直りやあきらめを想像してしまう歌である。それが切ない。
また、「ケーキ」「アイス」「チョコ」といった甘いものと同じ場所に「あなた」が並べられている点も、作中主体との関係性を推測させる良い構成になっているように感じる。


9.
コイビトの冷蔵庫を開ければそこは喪が明けたような静けさ
        シイナエリノ 「妹のコイビト お宅訪問他」より
「喪が明けたような静けさ」は一見ありきたりな表現のようである。
が、冷蔵庫の情景と並べると恐ろしく噛み合う。
あの明かりの色合いや食物が静止して並ぶ情景は、まさに「喪が明けた」と言ってよいように感じられる。


10.
さくらから葉桜にうつる木の下にわが指定席と呼ぶベンチあり
                      杉崎恒夫 「指定席」より
言葉の移り変わりがなめらかである。そのなめらかさが、春の情景によく合わさっている。
ゆっくりと視点が下にうつっていく点も、桜が降るような感覚を読者に与えている。
また、「さくら」の平仮名表記はともすればあざとさが目立つが、この歌の中では前半に用いることでやわらかさを与えることに成功しているように感じられる。

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2009/08/07 (Fri) かばん2008年6月号 1/5

【はじめに】
独断に基づいて選んだ、好きな歌を批評します。
原則、冊子の状態に従います。
そののちに退会した会員の方の作品も、(当時の)会員作品として扱います。
改名された方も当時の名前で掲載させていただきます。
誤字脱字があった場合は、コメントでご一報くださると非常に助かります。

1.
待ってって言うのに傘は置いてくし新玉ねぎはすぐに煮えるし
                   本田瑞穂 「手を伸ばす」より
まず、言いさしの表現が成功していると思う。言いさしの表現により、作中主体が愚痴をはいているような、独り言をはいているような感覚を読者に与えている。
また「し」の繰り返しにより、リズムや積りゆく感情をかもし出している。
歌の表現においても、新玉ねぎのモチーフが生活感や透明な色合いを出し、全体を引き締めて味をつけることに成功しているように感じる。
全体的に、諦めのような切なさを感じる歌であると思う。


2.
最後まで言えなかったよ肉じゃがはじつはあんまり好きじゃないって
        辻井竜一 「ロストチャイルド・イン・ザ・ユートピア」より
肉じゃがは女性側からは勝負メニューとして認知されているが、男性側は実はそうでもないという話を聞いたことがある。
不意にそんなエピソードを思い出してしまった歌。
肉じゃがをはさんで、作中主体と言えなかった相手のすれ違いを感じる。
歌だけで判断はできないのだけど、肉じゃがのような些細なことが積り重なって「最後」になってしまったのだろうかとも思える。
ありそうなことなのだけど、ありがちで終わらない不思議な歌だと思う。


3.
「いい意味で愚かですね」とコンビニの店員に言はれ頷いてゐる
                    山田航 「世界に透かす」より
はっきり言って、現実では決してありえない光景であると思う。
けれどそのありえなさが、シュールさをかもし出している。
表現も、「コンビニ」という世界、「愚か」というあまり日常会話で使わない単語がドライな世界観をもたらしている。
また、それに応じる作中主体も頷く以外の動作が明示されていないため、淡々とした印象を受ける。
全体的に乾いた・淡々とした歌であると思う。


4.
正月しか見たことのない漫才師みたいに生きてゆけたらと思ふ
                    山田航 「世界に透かす」より
これも、非常にシュールな内容であるように感じる。
わかりやすさもあるけれど、同じくらいシュールである。
「正月しか見たことのない漫才師」と極端なデフォルメを施すことで、作中主体が羨望や悪意を込めて眺めているように見える。
また、感情を明示する表現がないため、突き放して傍観しているような感覚もある。これは「みたいな」のようなあいまいな表現や、「思ふ」のような想像の世界を示す言葉を使っているからかもしれない。


5.
20年4月現在係長のあなたが絶対知らない「おはよう」
             白辺いづみ 「追いつきたい」より
まず抱いた印象として、良い意味で言葉が鋭い。漢語の多用や体言止め、「絶対」という言い切りが効いているからだろう。
また、係長と作中主体の関係に緊張感を与えている気がしてならない。二人の関係は、ポジティブなものではなさそうである。
日時を明記したうえでの「現在」という表現も、それまで係長でなかった可能性や未来は係長でないという可能性を想起させる。
また、係長が絶対知らない「おはよう」を作中主体は知っている。そのことにたいする優越感もあるのではないかと考えられる。

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